純情エゴイスト

□心と体
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同じ空の下で 同じ想いを抱いていたら

繋がっているのだろう

混じり合うことすら出来ない程
離れていたとしても

その胸には同じ想いがあるのだから



弘樹が野分を見送ってすぐ、野分は後ろ髪を引かれる思いでいた。

笑顔で見送ってもらったはずだが、何故か気になる。

野分は度々振り返りながら病院までの道を急いだ。

弘樹は、気持ちを切り替え年末の大掃除でもしようかと考えていた。

まずは、散かした本をどうにかしようと、一ヵ所にまとめていた時だ。

ピンポンとチャイムが鳴る。

野分から連絡は来てないが、何か忘れ物だろうか。

弘樹は玄関へと急いで向かう。

チェーンロックを外そうと手をかけるが、なんとなくドアスコープを覗いた。

最初に見えた黒い髪に安心するのも一瞬で、弘樹は相手を確認した瞬間急いで部屋へと戻った。

野分の布団に包まり、震える身体を抱きしめる。

(なんで、あいつがいるんだ。そんなはず、ないのに!大丈夫、居留守使えばいいだけだ。)

「そうだ、諦めて帰るのを待っていればいいんだ…だいじょ」

「悪いな、弘樹。俺は、待つのが嫌いなんだ。だから、勝手に上がらせてもらったぜ。」

弘樹は、聞こえるはずのない自分以外の声に目を見開く。

次の瞬間には、布団を剥がされ無理やり立たされていた。

野分と同じくらいはある身長に野分と同じ黒い髪。

ただ違うのは、たばこの臭いと射抜くような獣みたいに鋭い視線。

「あの夜を忘れた訳じゃないよな、上條弘樹。」

そう23日の夜、成り行きでその夜をともにした男だった。

あの日の記憶は弘樹にとって曖昧で、この男の顔さえ今はっきりと認識したようなものだ。

ただ、射抜くような視線は覚えていた。

息苦しさを感じる程の威圧感に弘樹はやっとの事で声を絞り出した。

「知らない。人違いだ。離せ。」

単語でしか話せない弘樹の声は震えていた。

弘樹の言葉を聞いた男はスッと目を細める。

そして、弘樹に噛みつくようなキスをする。

いきなりの事に頭がついていかない弘樹は抵抗する事も出来ずに翻弄された。

割って入ってきた舌は、弘樹の弱いところを全て知っているようにし、攻めてくる。

弘樹の腰が砕け、酸欠で目が霞んできたころ、やっと唇が離された。

「沁瑞 真貴だ、覚えとけ。」

その言葉を最後に弘樹の意識は沈んでいった。
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